スプリングスティーンの3枚目のアルバム『Born to Run』のオープニングナンバー。
彼はこのアルバムをきっかけにモンスター・アーティストへの道を歩み始めるわけで、そういう意味でも、『Born to Run』は歴史的名盤ということになる。
最近、この曲をライブ映像で観たのだが、まあ、なんというか不思議な曲である。
まず気づくのは、この曲には、いわゆる「サビ」がないことだ。
もちろん、サビのない曲はほかにもたくさんある。しかし、この曲はそれだけではなく、曲全体の構成にも独特の不思議さがある。
イントロは、ピアノとハーモニカ。
そこから、メアリーという女性との恋物語が始まるのだが、歌詞には、のちにスプリングスティーンの代名詞となるモチーフがいくつも登場する。
車、ストリート、ドライブ、そして約束の地――。
ロイ・オービソンの名前も出てくる。おそらく「Only the Lonely」を意識したものだと思われる。そう考えると、この曲の舞台は1960年代なのではないだろうか。
スプリングスティーンは1949年生まれなので、多感な10代を過ごした時代のことを歌にしたと考えるのは、さほど無理のない話である。
つまり、自身の青春時代の思い出と想像を織り交ぜて作った曲なのだろう。
古き良きアメリカの青春を思わせる歌だからこそ、多くの人が共感できるのかもしれない。
ライブ、特にアメリカ公演では、
「Show a little faith, there’s magic in the night
You ain’t a beauty, but hey, you’re alright」
という部分を、観客が大合唱する。
それにしても、「You ain’t a beauty」――「君は美人じゃない」という歌詞を、みんなで大合唱するのがなんともおかしい。
この合唱部分までは、基本的にピアノを中心とした静かな演奏が続く。そして観客の合唱が終わると、オンビートになり、バンド全体の演奏が始まる。
つまり、サビで合唱しているわけではない。
まあ、そもそもサビがないのだが。
そんな歌詞を、スプリングスティーンが淡々と、しかし絶叫するように歌い上げていく。
そして、この曲が最も大きな盛り上がりを見せるのが、コーダの部分である。クラレンス・クレモンズのサックスが鳴り響き、曲は最高潮に達する。
クラレンスはすでに亡くなっているが、現在は甥のジェイク・クレモンズが、その役割を引き継いでサックスを奏でている。
サビの定義を「曲中で繰り返され、最も盛り上がる部分」とするならば、このコーダこそがサビなのだろうか。
歌はないけれど……。
とまあ、よくよく聴いてみると、なんとも不思議な曲である。
しかし同時に、スプリングスティーンの数ある楽曲の中でも、特に好きな曲のひとつでもある。

